私たちは日々たくさんの出来事を経験し、それが記憶として脳に蓄えられていきます。

睡眠はその記憶を定着させる大事な時間です。

しかし富山大学で行われたマウス研究によって、眠っている脳内では、過去の記憶を整理・強化しつつ、これから起こる出来事に備えて新しい記憶の「受け皿」を用意するという二つのプロセスが同時に進んでいることが明らかになりました。

言い換えれば、睡眠は「過去の整理」だけでなく「未来の記憶への投資」でもあったのです。

研究内容の詳細は2025年4月28日に『Nature Communications』にて発表されました。

目次

  • 記憶は経験前に準備される?未解明だった謎に挑む
  • 脳は寝ている間に昨日の記憶を整理し、明日の記憶を密かに仕込んでいる
  • 睡眠は「過去の整理」だけでなく「未来の記憶への投資」でもある

記憶は経験前に準備される?未解明だった謎に挑む

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マウスの脳内で過去・現在・未来の記憶がどのように処理されるかを示した概念図です。左の枠「過去」では、赤い円で示されたエングラム細胞集団(記憶を担う神経細胞の集まり)が経験Aの記憶を符号化しています。中央「現在」(睡眠中)では、過去の経験Aの記憶を担う赤いエングラム細胞が再び活動して記憶の定着が行われると同時に、緑色の「エングラム予備細胞集団」が出現しています。右の枠「未来」では、この睡眠中に準備された緑の予備細胞集団が、次の日の新たな経験Bの記憶を担う様子を示しています。つまり睡眠中の脳では、過去の記憶を整理すると同時に未来の記憶の下準備も進められているのです。/Credit:脳が未来の記憶に備える重要なプロセスを発見— 睡眠は単なる休息ではない —

これまでの研究から、睡眠が前日の記憶を定着(強化)させるために必要不可欠であることが知られていました。

例えば、昼間に学んだことは一晩眠ることでより思い出しやすくなる──これは脳が睡眠中にその記憶を再現して「おさらい」し、しっかり定着させているためだと考えられています。