では、その主な発見を順を追って見てみましょう。
エングラム細胞は学習前の睡眠中からすでに活動している
– 解析の結果、1日目の新しい環境Aの記憶を担うエングラム細胞集団は、経験Aをする前の睡眠中の時点で既に一度まとまって活動していたことが分かりました。
つまり、マウスが環境Aを初めて体験する前に、将来その経験Aの記憶を担う細胞グループが睡眠中に「予行演習」のように活動していたのです。
さらにその細胞グループのうち約半数は、経験Aの後の睡眠中や翌日の想起時にも再び出現(リプレイ)しました。
これは、それらの細胞が実際に経験Aのエングラム細胞(記憶細胞)となったことを裏付けています。
次の記憶を担う“エングラム予備細胞”が睡眠中に出現する
– 続いて、その「未来の記憶の担い手予備軍」がいつ現れるのかを調べました。
すると、環境Aの経験直後の睡眠中に現れた別の細胞集団が、翌日の環境B体験中に再び活動することが判明しました。
この細胞集団は、活動パターンに特徴的な繰り返しが多く見られる点や、全細胞中に占める割合がエングラム細胞とほぼ同じ約8%である点などから、エングラム細胞と同様の特徴を備えていました。
つまり、このグループこそ次の新しい経験Bの記憶を担う「エングラム予備細胞集団」であると考えられたのです。
興味深いことに、この予備細胞集団の出現は睡眠中にのみ見られ、覚醒中には確認されませんでした。
脳は眠っている間にこそ、次に来る体験に備えて新しい記憶の器となる細胞グループを立ち上げていたのです。
「未来の記憶」予備細胞は前の記憶のリプレイと同期していた
– さらに分析を進めると、エングラム予備細胞集団は睡眠中に起こる前の記憶(環境A)のリプレイ(再現)と同じタイミングで活動していることが分かりました。
過去の複数の記憶を同時に再生することで新しい情報を生み出す──睡眠にはそんな働きがあることが最近の研究で示唆されています。