たとえば2010年には物理学者アダン・カベージョ氏らによって、グラフ理論を用いて量子世界にも排他性原理が適応されることが示されました。
そして現実のコイン投げで「表が出る確率と裏が出る確率を同時に高めることができない」のと似たルール(隣接する頂点(排他的な事象)の確率は同時に高くなれない:EP)が存在する可能性があるわけです。
これは一見するとなんでも起こり得ると考えられる量子の世界も、流石に確率の合計が100%を超えないだろうという、縛りを設定したことになります。
そして研究者たちはこの縛りを起点(あるいはライン)に計算を行うことで、自然界に「量子もつれ」より強い関係性が存在するかを確かめることが可能になりました。
絶対に越えられない縛りを設定した上で、量子の関係の強さが縛りの限界と一致するかを見極めるのです。
するとこの方法を使うことで、いくつかの研究では量子もつれの強さが縛りの限界と一致する「最強」であることが示されました。
また中国の物理学者ヤン(Yan)氏の研究もこの結果を後押ししました。
現状最強の「量子もつれ」が持つ関係性の強さを表す数値は2√2(約2.828)であることが知られています。
そこでヤン氏は「同時に起こらない出来事の合計確率は100%を超えない」というシンプルな縛りをベースに計算を行い、理論上考え得るあらゆる関係の強さの値を求めたところ、最も強いものでも2.828と量子もつれの数値と一致しました。
さらに2014年には、アマラル氏らが行った研究(ある測定グラフに対し許される相関の集合は量子論が与える範囲に厳密に一致する)でも、量子力学よりもっと凄い結びつきの強さは存在しないことが示されました。
しかし、これらの先行研究は扱う状況(グラフ)が限定的であり、一般のあらゆる場合に当てはまる保証はありませんでした。
今回の研究の目的は、この原理をより普遍的な形で証明し、「量子もつれ以上の相関が存在しない」という主張を原理的に裏付けることにしました。