解読不能な最後の言葉「STENDEC」の謎
チリとアルゼンチンの航空当局は直ちに捜索活動を開始したが、機体の残骸はおろか、煙や衝突の痕跡すら見つけることはできなかった。スターダスト号はまるでアンデスの空に溶けてしまったかのようだった。
しかし、捜査関係者を最も悩ませたのは、機体の失踪そのものよりも、最後に残された謎の言葉「STENDEC」であった。一体これは何を意味するのか?秘密のコードか?救難信号か?それとも単なる通信士のミスなのか?
何十年もの間、航空、暗号解読、無線通信の専門家たちが、この「STENDEC」の意味について議論を重ねてきた。モールス信号の打ち間違いではないかという説(例えば “DESCENT”(降下)の誤送信)、あるいは頭字語ではないかという説(例えば “STar Dust ENroute to Destination – Emergency Crash”(スターダスト号、目的地へ向けて飛行中、緊急墜落))、様々な仮説が立てられた。
しかし、どの説も決定的な証拠はなく、むしろ3度も正確に繰り返されたという事実が、これが意図的に、そして明確に送信されたメッセージであることを示唆しているようにも思われた。
謎は謎を呼び、伝説は膨らんでいく。戦後の秘密任務に関連する軍事暗号だという者、当時の冷戦下で盛り上がりを見せていたUFO(未確認飛行物体)と結びつけ、地球外からのメッセージだと主張する者まで現れた。物理的な証拠が何も見つからないことが、かえって「アコンカグア(アンデスの高峰)の幽霊飛行機」という伝説を大きく育てていったのだ。
他の可能性としては、高高度飛行による低酸素症(酸素不足)が通信士の判断力や操作能力に影響を与え、意味不明な文字列を送信してしまった、あるいはエラーを引き起こした、という見方も存在する。また、未知の緊急事態に際し、即席で何らかの合図を送ろうとして、意図的に「偽の」単語を使ったのではないか、と考える向きもある。