感覚回路も静まり返るため、外界の映像や音は、このブランクの間ほとんど認識されなくなります。
つまり、マインド・ブランクは覚醒状態のまま、一時的に脳が“オフライン”のような睡眠に近いモードへ移行してしまう結果ともいえるでしょう。
この状態は、いわば「脳内金縛り」です。
体は起きているのに、注意や記憶をつかさどる神経ネットワークが一瞬だけ硬直し、入力も出力も動けなくなるイメージです。
金縛りで体が動かせないように、局所睡眠に入った領域は情報をまったく処理できず、視覚や聴覚の扉を閉ざします。
そのため外の世界は通り過ぎるだけで、私たちは「何も考えていなかった」としか報告できなくなるのです。
興味深いことに、頭が真っ白になるのは疲れが原因だけではなく、逆の極端なケース、つまり脳が過剰に刺激されたときにも起こり得ます。
著者によれば、後部(後ろ側)の脳領域で急激な神経活動の高まりが起こった場合、たとえば急速に大量の情報を処理する「高速思考」の最中に、逆説的に思考が止まってしまうことがあるのです。
この場合、思考のオーバーロードが一種のサーキットブレーカーを作動させ、一時的に意識の流れをシャットダウンしてしまいます。
ならば意図的に「頭を空っぽにしよう」と試みたらどうなるのでしょうか。
研究チームは、この点についても調べましたが、参加者に意図的に「何も考えないでください」と指示すると、脳スキャンの結果、主要な認知領域が広範囲にわたって活動を低下させることがわかりました。
たとえば言語を司る領域(前頭葉のブローカ野)、記憶をつかさどる領域(側頭葉の奥にある海馬)、そして自己を省みる働きを持つ領域(前頭皮質の一部)が、同時に沈黙に近い状態になるのです。
このように皮質の大部分を協調して沈黙させる――言い換えれば、脳全体の活動を大きく低下させる――ことこそが、頭を本当に空っぽに近づけるために重要な要素だと考えられます。