手記には「ノボカイン(局所麻酔薬)の入った針を手に取り、最初の注射をした後、どういうわけか私の手は自動的に手術モードに切り替わり、それからは何も気にならなくなった」と書いてあります。

麻酔の量を通常より少なくしたため、彼は文字通り、身を裂くような痛みに耐えなければなりませんでした。

また、手鏡を使うつもりでいたのですが、鏡像を見ると混乱してしまうため、結局は鏡なしで、さらに手袋も外して素手で確かめながら手術を進めました。

手術後のロゴゾフと助手を務めた同僚
手術後のロゴゾフと助手を務めた同僚 / Credit: David Hindin, M.D – The man who tried to cut out his own appendix(youtube, 2022)

彼は出血や痛みで何度も意識を失いそうになりながら、4〜5分おきに20〜25秒の休憩を挟みつつ手術を続けたという。

そして慎重に自らの腹部を切り進め、最大の難関がやってきました。

彼の手記にはこうあります。

「ついに呪われた腸が姿を現した。虫垂は腫れ上がって、根元に黒いシミができており、あと1日でも放っておけば、おそらく破裂していただろう」

ロゴゾフは遠のく意識の中、自らを奮い立たし、”呪われた虫垂”を切除。

縫合手術も最後の1針まで自分で行い、午前4時、およそ2時間にわたる大手術を見事にやり遂げたのです。

しかし彼は休む間もなく、手術器具の洗い方を助手に指示し、部屋の掃除や消毒をしてから、抗生物質と睡眠薬を飲み、ようやく眠りにつきました。

そして、わずか2週間後には、通常の勤務に復帰したのです。

帰国後のロゴゾフ
帰国後のロゴゾフ / Credit: David Hindin, M.D – The man who tried to cut out his own appendix(youtube, 2022)

奇跡の大手術のニュースはソ連にも伝えられ、ロゴゾフは帰国後、国民的英雄として迎えられました。

彼は、ソ連国家のために卓越した労働や技術の功績を達成した民間人に与えられる「労働赤旗勲章」を授与されています。