漫画『ブラック・ジャック』には、主人公のブラック・ジャックが手術代に吊るした鏡を見ながら、自らの体を手術するシーンがあります。
創作上のトンデモ設定のように思えますが、実はセルフ手術をやってのけた医者は本当に存在します。
その人物は、旧ソ連の外科医レオニード・ロゴゾフ(Leonid Rogozov、1934〜2000)です。
ロゴゾフは当時27歳だった1961年に、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)の切除手術をやってのけたことが記録されています。
しかしなぜ彼は自ら手術しなければならなかったのでしょうか?
目次
- なぜセルフ手術をする羽目になった?
- 2時間におよぶ大手術の行方は…?
なぜセルフ手術をする羽目になった?
1961年1月、若き外科医だったロゴゾフは、旧ソ連の第6次南極観測隊に専門医として参加していました。
延べ12人で編成された観測隊の目的は、南極にソ連用の基地を建設することでした。
その新たな基地は2月半ばに完成し、任務を終えた一行は、厳しい冬を乗り切るために基地に腰を落ち着けました。

ところが4月末になってロゴゾフは体調を崩し、日に日に衰弱して吐き気をもよおし、右腹部に激しい痛みを覚えるようになったのです。
もちろん彼は何百という患者を診断してきた医者なので、すぐに自分が「急性虫垂炎」であると判断しました。
急性虫垂炎は、腸の入り口の先端にぶら下がっている虫垂に炎症を起こすことで発症する病気です。
そのまま放置すると虫垂に膿(うみ)が溜まり、悪化すると穿孔(せんこう、虫垂の破裂)を起こして、膿が腹腔内に放出され、腹膜炎を併発する恐れがあります。
