一部の研究では手術後に抗うつ薬の使用が減少したり精神状態が改善したとの報告もあり、手術の有効性が主張されています。
一方でデータの限界や方法上の偏りを指摘する声や、別の条件下では悪影響が見られるとする報告も存在し、結論は定まっていません。
このような状況の中、最新の包括的なデータで性別適合手術後のメンタルヘルスを評価することが求められていました。
2025年4月に発表された研究は、まさにその疑問に答えるべく実施されたものです。
米国テキサス州の研究チームは、大規模な医療データベースを用いて性別適合手術を受けたトランスジェンダー患者の術後メンタルヘルス指標を詳細に調べました。
性別に違和感があって性別適合手術を受けた人々のその後の心理状態はどうなるのでしょうか?

調査対象は2014年6月から2024年6月までの10年間に性別違和と診断された18歳以上のアメリカ人患者107,583名という極めて大規模なものでした。
この中から、性別適合手術を受けた人と受けていない人の二群を抽出し、年齢や人種・民族といった背景要因が近くなるよう傾向スコアマッチングという統計手法で調整しました。
さらに出生時の性別(男性から女性への移行を希望する人か、女性から男性への移行を希望する人か)によってグループ分けし、術後2年間におけるうつ病、不安障害、自殺念慮、物質使用障害、身体醜形障害の診断有無を調べています。
より詳しくは、同じく性別違和と診断された当事者を「手術あり」と「手術なし」に傾向スコアでマッチさせた上で直接比較し、性別適合手術の有無だけを変数として相対リスクを算出しています。
その結果、性別適合手術を受けたグループは受けていないグループに比べ、主要な精神疾患のリスクがいずれも有意に高いことが明らかになりました。