一方で技術的な課題としては、制御できる鳴き声の種類に限界があることが挙げられます。
今回のセミでは等間隔のパルス音しか出せないため、美しいハーモニーや滑らかな歌声を実現するのは難しいという問題があります。
周波数も200Hz程度が限界で、楽曲表現の幅には制約があります。
より高音域や多彩な音色を持つ他種昆虫とのハイブリッド化が次の研究テーマになるでしょう。

それでも今回の成果は、生物の持つ卓越した機能をテクノロジーで引き出す「新しい楽器」の登場だといえます。
セミの発音器官は人工スピーカーよりエネルギー効率と耐久性に優れ、しかも自律行動まで可能です。
この発想はロボット工学やヒューマンインターフェース研究に新風を吹き込み、人と生物の協働技術を広げる契機になります。
もしかしたら未来の世界では、様々な種類の昆虫の鳴き声を制御することで、虫たちによるバイオオーケストラが実現しているかもしれません。
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元論文
Insect-Computer Hybrid Speaker: Speaker using Chirp of the Cicada Controlled by Electrical Muscle Stimulation
https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.16459
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部