面白いことに、適切な範囲内の電圧では入力した信号の周波数通りのリズムで「ジッ…ジッ…ジッ…」と鳴き声を刻みます。

しかし刺激が弱すぎると入力の半分の周波数で鳴いたり、強すぎると入力の2倍の周波数で細かく震える鳴き声になったりしました。

研究チームはそれぞれのパターンに名前を付けました。

狙い通りの周波数で鳴いた場合をCFW(正しい周波数波形)、半分のときをHFW(半分の周波数波形)、2倍のときをDFW(2倍の周波数波形)、どれにも当てはまらない不規則な鳴き方はIFW(不規則周波数波形)と分類しました。

要するに、程よい電気刺激ならセミは狙った通りの音程で鳴きますが、刺激が弱すぎたり強すぎたりすると鳴き方が安定しません。

幸い、適切な範囲の電圧を見極めれば実用上ほとんどの音階をセミに鳴いてもらえることも判明しました。

実験した7匹のセミを総合すると、約27.5Hzの低音A0から約185Hzの高音F#3まで、各音階で安定したCFW鳴動が可能でした。

個体差はあり、性能の良いセミはF#3まで鳴けましたが、平均的にはC#3あたりが上限でした。

いずれにせよ、人間の耳に十分届く音域でセミの音階を実現できたのは大きな成果です。

では実際に音楽を演奏させることはできたのでしょうか。

研究チームはこのインターフェースを使い、有名なクラシック曲「パッヘルベルのカノン」から映画「トップガン」のテーマまで様々な曲の旋律をセミに鳴かせる実験を行いました。

その結果、セミは見事にコンピューターの指示通りドレミファソラシドと音を奏でてみせました。

実際の音色は「ジー、ジー…」というアブラセミ独特のものですが、よくよく聞くと音程が制御されているため、確かにあの「カノン」の調べに聞こえます。

まさに昆虫とコンピューターの合奏と言えるでしょう。

この成果には研究者たち自身も感銘を受けたようです。

第一著者の佃さんは「セミの中には逃げ出そうとするものもいましたし、『まあお腹貸しますよ』と言わんばかりにおとなしい個体もいました」と語っています。