電気刺激に対するセミそれぞれの反応の違いはあれど、多くのセミで音階コントロールが可能であることが示されました。
研究者たちは「中には演奏中に自分から鳴くのを止めてしまうセミもいてヒヤヒヤしましたが、それも含めて面白い発見でした」と振り返ります。
論文中には「セミは刺激されている最中でも自発的に動いたり鳴き止んだりできる」と記されています。
つまり完全にロボットのように操っているわけではなく、セミ自身の状態によっては演奏を中断してしまうこともあるのです。
生体楽器の未来:災害アラームから森のオーケストラへ
こうして世界初の「セミ・スピーカー」による音楽演奏は成功しましたが、これはあくまで研究のプロトタイプです。
ここから先、実用化や発展に向けてどのような可能性と課題があるのでしょうか。
まず応用の可能性について考えてみましょう。
研究チームが述べているように、将来は災害時の音声アラートなどへの活用が期待されます。
例えばセミや他の鳴く昆虫に極小の電極と受信機を装着し、いざという時に一斉に信号を送って「サイレン音」や「避難せよ」といった合図を鳴かせるシナリオが考えられます。
電池切れの心配があるロボットやスピーカーを大量に設置するより、身近な昆虫たちが自律的に生きながら音を出してくれれば維持コストも最小で済みます。
昆虫たちは普段は勝手に生活しており、必要なときだけ人間が“お借りする”わけです。
まさに自然とテクノロジーの協奏ですが、SF的な未来像ながら現実味も帯びてきます。
他にも森林や農地にいる虫を使って環境モニタリングや遠隔通信を行うアイデアがあります。
ある地点の温度やガス濃度を感じ取ったセンサーノードが、周囲の昆虫に特定の鳴き声パターンを送って遠く離れた人間に異常を知らせる仕組みも夢物語ではありません。
昆虫の鳴き声は種によって周波数帯やパターンが異なるため、多重信号を混信なく送る特性を生かせるかもしれません。