オタマボヤも魚やイカのように自力で活発に泳いで移動するわけではなく、海流に乗って流されて生きているために、大きく「プランクトン」に括られてしまうのです。

また通常、ホヤの仲間は成体になると海底などに固着する種類が多いのですが、オタマボヤは最後まで固着せず、幼生の姿のまま成熟する(ネオテニー)ため、成体でも幼生に似た単純な体構造に留まります。

こうしたう独特の生態が、オタマボヤに特異な進化や体づくりの戦略をもたらしている可能性があり、そこに研究者が強い興味を抱く要因のひとつともなっています。

特に注目すべきは、オタマボヤの体は脊索動物としては驚くほどシンプルなところです。

その体には脊索や中枢神経こそ備わっていますが、細胞数は大人になってもわずか約4,500個に過ぎません(幼体では550個)。

淡水プランクトンとして知られるミジンコ類の成体が数十万から百数十万個と考えられるため、オタマボヤの4,500細胞という数字がいかに“桁違いに少ない”かが際立ちます。

発生学的にも尾索動物の中で最も単純な体を持つ生物とされています。

さらにオタマボヤは脊索動物中最小のゲノムサイズを持つ生物としても知られています。

ヒトのゲノムサイズが約3.2ギガベースであるのに対し、オタマボヤのゲノムサイズはわずか約70メガベースしかありません。

このサイズは単細胞の動物プランクトンであるゾウリムシ(72メガベース)とほぼ同じで、寄生性生物を除けば多細胞生物で最小クラスです。

(※ゾウリムシには細胞内で遺伝子発現に使う通常のマクロ核(72メガベース)に加えて、ミクロ核と呼ばれる配偶子用の核があり、そちらは150メガベースあることが知られています。そちらを含めるとオタマボヤのゲノムサイズは単細胞生物のゾウリムシ以下となります)

このように、オタマボヤは体だけでなくゲノムも極限までコンパクト化した生物と言えます。