一見ただのプランクトンにしか見えない小さな透明生物「オタマボヤ」。
成体になってもオタマジャクシのような姿で海中を漂うというユニークな生活史を持ち、その体のつくりは脊索動物の中でも極端に単純であり、そのサイズの小ささから海洋プランクトンに位置付けられています。
ゲノムサイズもゾウリムシと同じ程度しかなく、脊索動物としても最小クラスです。
しかしその正体は実は私たち人間と同じ脊索動物の仲間です。
鹿児島大学(KU)で行われた研究によって、この不思議なオタマボヤは体を作る遺伝子の働きと言う点でも他の生物と大きく異なっており、基礎的なステップをいくつか省略していたことが発見しました。
なぜオタマボヤはこんなにも奇異な存在になってしまったのでしょうか?
研究内容の詳細は2023年3月18日に『Development』にて発表されました。
目次
- 脊索動物なのにプランクトン?オタマボヤとは何者か
- オタマボヤは「受精から生まれるまで3~4時間」「大人になるまで10時間」しかかからない:高速発生の仕組み
- “いらないものは捨てる” 削ぎ落とし進化
脊索動物なのにプランクトン?オタマボヤとは何者か

オタマボヤは動物分類学上、脊椎動物に近い「脊索動物」に属しホヤの仲間とされる生物です。
同じ脊索動物に属する動物としては、ヤツメウナギが比較的有名です。
しかしオタマボヤは脊椎動物やヤツメウナギたちとは比べ物にならないくらい小さく体長は数ミリ程(大型種でも1cm前後)で自由遊泳するプランクトンに分類されます。
脊椎動物に近い存在がプランクトンとして分類されているというと、意外に思われる方も多いかもしれません。
ただ「プランクトン」とは実は進化的な分類ではなく、“海中を漂う生活様式”を示す存在の総称に過ぎません。