しかし今回の研究では、新たに開発した特殊な「ホログラフィック・ストリップ」(回折光学素子の一種)を使い、1本のレーザー光から5本のビームを生み出して結び目を形成することに成功しました。
この方法により、一つの連続した光の紐が空間内で三つの輪を描いて絡み合うトレフォイル(三つ葉)結び目状の光構造が実現されました。
次に研究チームは、この光の結び目が空気の乱れの中でも形を保てるかを調べました。
屋外で長距離にわたる実験を行う代わりに、卓上サイズの装置で大気の乱流を再現しています。
オーブントースターほどの小さな箱の底にホットプレート(熱板)を置いて空気を温め、複数のファンで空気をかき混ぜることで、箱の中に小規模な乱流(不規則な空気の流れ)を発生させました。
また、限られた空間で光が長い距離を進む状況を作るため、光を何枚もの鏡で反射させ、狭い箱の中でも数百メートル先まで光が進んだのと同じ条件を再現しました。
こうして作り出した光の結び目を、この人工の乱流が渦巻く空気の中に通してみます。
すると、空気が静かなときには結び目はしっかりと形を保ち、三つの輪が綺麗に絡み合った状態がそのまま空中に留まることが確認できました。
しかし、空気の流れが激しく乱れると結び目の形は少しずつ崩れ始め、輪がほどけてしまいます。
乱流の中では、光の結び目はもはや元の複雑な構造を保てず、そこに載せていた情報を運ぶ力も失われてしまうことが分かったのです。
では、光の結び目が乱れた空気でもほどけにくくする工夫はできないのでしょうか。
研究チームは結び目の形状そのものをさらに複雑にすることで、安定性を高められるか試しました。
光の結び目のパターンに追加のねじれや輪を加え、いわば構造を補強するような設計にしたのです。
たとえるなら、ジェットコースターの支柱を増やして頑丈にするように、光の輪の交差点(結び目の節目)を増やし、互いに支え合う箇所を多く設けました。