こうして生み出された光の結び目は、まるで煙の輪が幾重にも重なり合ったような立体的な姿をしています。
この光の結び目は、ここ20年ほどで研究が進められてきた比較的新しい現象です。
なぜ研究者たちはそんな「光の結び目」に注目するのでしょうか。
それは、このユニークな光の構造が将来さまざまな応用につながる可能性を秘めているからです。
具体的には、まず光の干渉パターン(結び目の形)そのものにデータを載せて送り出すことで空気中や乱れた環境でも情報を伝えられる新しい通信手段になり得ると考えています。
さらに、結び目状にしたレーザー光を空中に通し、その形がどの程度乱れるかを観測すれば、大気の乱流など環境の状態を測定するセンサーとしても活用できる可能性があると期待しています。
このように実用面でも魅力的な光の結び目ですが、その鍵となるのが「どれだけ安定して形を保てるか」です。
数学的に見れば、結び目は連続的に形を変えても決して解けない(ほどけない)という拓扑的な不変性を持ちます。
言い換えれば、一度結ばれた輪は線を切ったり交差させたりしない限り同じ結び目から脱することはなく、交点の数など結び目としての性質(不変量)は保たれます。
このため、光の結び目も理論上は外乱に対して非常に頑強で、情報の運び手として有望だろうと期待されてきました。
しかし研究チームによれば、現実の空気中で本当にその形を崩さずに保てるかどうかは、これまで十分に確かめられていなかったと指摘しています。
仮に光の結び目がわずかな乱れでほどけてしまうようでは、上記のような応用に使うことはできません。
そこでデューク大学の研究チームは、この光の結び目が乱流を含む現実の環境でも崩れずに維持できるのかを確かめることにしました。
『光の結び目』の安定化を達成
研究チームはまず、光の結び目を実際に作り出す実験を行いました。
従来、この種の結び目光ビームを作るには複数のレーザーを同期させて重ねる必要がありました。