例えば暗闇で互いに逆向きに懐中電灯を照らし合うと、ちょうど重なった部分だけ暗く見えますが、それはそこに光が無いのではなく、人間の目には感知できない仕方でエネルギーが存在していると考えるようなものです。

今回の研究は、この「暗闇に光はあるのか?」という長年の疑問に量子論の枠組みで答えを提示したと言えるでしょう。

教科書更新か? 量子“潜伏光”が開く未来

教科書更新か? 量子“潜伏光”が開く未来
教科書更新か? 量子“潜伏光”が開く未来 / Credit:Canva

この成果が注目される理由は、二重スリット実験という古典物理以来の基本的な現象に対して量子的な新解釈を与えた点にあります。

それは同時に、波と粒子の二重性や補完性(両方の性質は同時に観測できないという原理)を巡る古くからの議論にも一石を投じるものです。

研究者たちは「この新しい描像は、ニュートン(粒子派)やマクスウェル(波派)、アインシュタイン(粒子派)、ミリカン(波派)など多くの偉人たちが関わってきた古い議論の側面に決着を与えるものだ」と述べています。

一見すると不思議だった観測者効果についても、今回の理論でだいぶ霧が晴れるかもしれません。

これまで「観測すると現実が変わる」という説明にはどこか神秘的な響きがありました。

しかしVillas-Boas氏は、「観測者が現実を変えるという神秘はもはや不要」だと強調します。

観測者(検出器)は何も魔法を使っているわけではなく、単に光子の状態をダーク(隠れた状態)からブライト(顕れた状態)へと変えているに過ぎないのだと言うのです。

これなら私たちが直面する量子の不思議もグッと腹落ちしやすいメカニズムで理解できるようになるでしょう。

もっとも、この理論的な描像は非常に直観に反するため、研究チーム自身も最初は「本当に正しいのだろうか?」と半信半疑だったそうです。

研究者たちは「あまりに逆説的なイメージだったので、最初は“All hell broke loose”(もう何が何だか大混乱)という感じでした」と振り返っています。