2010年、秋。日本最大の匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」(現・5ちゃんねる)に、突如として現れた一人の人物が、ネット空間に静かな、しかし確かな波紋を広げました。彼は自らを「2062年から来た男」と名乗り、未来に関する質疑応答を開始。当初はありふれたネット上の戯言と見なされた彼の言葉は、翌年に発生した未曾有の大災害によって、にわかに現実味を帯び始めることになります。
この記事では、日本のインターネット史、そして都市伝説界隈において特異な存在感を放つ「2062年から来た男」について、その登場から語られた内容、信憑性を巡る議論、そして現代に与えた影響まで、現存する記録と情報を元に、可能な限り詳細に掘り下げていきます。果たして彼は本当に未来からの訪問者だったのか? それとも、精巧に作り上げられた虚像だったのか? 時を超えた謎めいた訪問者の言葉に、今一度耳を傾けてみましょう。
嵐の前の静けさ:2062年未来人の降臨(2010年11月)
物語は、2010年11月14日、2ちゃんねるの「オカルト超常現象板」にある「予言・予知夢」関連のスレッドから始まりました。
「俺、未来(2062年)から来たけど、なんか聞きたい事ある?」
このシンプルな問いかけに対し、スレッドの住民(通称:ネラー)たちは、好奇心と懐疑心をないまぜにしながら、次々と質問を投げかけます。彼は自身の素性について多くを語りませんでしたが、断片的な情報から、日本人男性であること、そして何らかの「任務」でこの時代に来ていることが示唆されました。
Q:あなたは未来からの何かしらのゲートウェイを使っての無線通信を使って書き込みをしているのですか?それとも肉体ごとこの世界にやってきてどこかのネットカフェや無線LANただ乗りから書き込んでいるのですか?
A:肉体ごと来てる。通信手段&場所に関しては言わないでおく。
Q:何で遥々この時代に来たのに2chのオカ板の予言スレに書き込んでるんですか?
A:訪問の目的は秘密調査の一環。書き込んでるのは、過去データベースを調べて2010年に人気があったウェッブサイトだと判明した。調査予定時間まで見てみようと考えたのだが書きこんでしまった。
(2010年11月14日)
彼は自身の予知能力を否定し、「2062年から調査の為に来たただの男だ」と繰り返します。ジョン・タイター(※2000年にアメリカのネット掲示板に現れた自称タイムトラベラー)との関係を問われると「ノーコメントだ」と回答。年齢や住所も「非公開」としました。
当時の彼の書き込みからは、2010年の世界に対する驚きや戸惑いも見て取れます。
「今、本日の秘密調査が終わった。多くの質問を読み返してみる。しかし、今2010年は驚く光景ばかりだ。2062年の日本の基盤って感じが伝わってくる。車はまだガソリンで走ってるんだな。」
(2010年11月14日)
「全く関係ない話だけど、このイヤホンの作りはレトロだなと感心する。コードをいち早く取るべきだと。もうあるのかい?」
(2010年11月16日)
彼は「秘密調査」のため一時的に姿を消すことを告げ、数日後の再訪を約束します。そして、11月16日に再び現れ、質疑応答を再開。この際、未来の情報を漏らすことには制約があることを明言しました。
「歴史上の記録(資料持参を絶対にしてはならない為、自分の記憶になる)をそのまま書き込むことになる。記憶の多少の誤差(微妙な数値など)は勘弁してくれ。(中略)洩らすことが許されない情報がいくつも存在する。例えば、株式で莫大な利益を得る事に少しでも抵触する可能性があれば×(中略)人口動態的変化に纏わる事も×」
(2010年11月16日)
そして、この11月のやり取りの中で、後に彼の名を一躍有名にする、あの「警告」が発せられます。
Q:あなたの時代までにあった歴史に残るような大きな自然災害(2011~2062年)をいくつか教えてください
A:自然災害に関しては、言う事が許されない。人口動態変化に繋がる事は言えないのだ。ただし、忠告しておく。yあ 間 N意 埜 b於 レ
(2010年11月14日)
この奇妙な文字列「yあ 間 N意 埜 b於 レ」。当時は意味不明な文字列としか受け取られませんでしたが、これが後に「山に登れ」という、津波からの避難を促すメッセージのアナグラム(文字の並べ替え)であったと解釈されることになるのです。
彼は11月21日、23日にも短い時間現れましたが、この最初の接触期間で、後の議論の核となる多くの「予言」の断片と、謎めいた警告を残して姿を消しました。