しかし、社会的学習のメカニズムを調べる従来の実験研究の多くは、現実とはかけ離れた単純な課題を用いており、複雑な実世界で人々が個人の本能(経験則)と社会的な手がかりをどう統合しているかについてはほとんど分かっていませんでした。

このギャップを埋めるため、ドイツ・ベルリンのマックスプランク人間開発研究所やチュービンゲン大学、米ニューヨーク大学などからなる国際研究チームが立ち上がりました。

彼らの目的は、これまで別々に研究されがちだった「個人学習」と「社会学習」の適応的なメカニズムを一つの実験系で明らかにし、両者を架橋することにありました。

そこで研究チームは、人気ゲーム『マインクラフト』内に没入型の採集タスクという仮想実験環境を開発し、人間がリアルに近い状況で個人情報と社会情報をどう使い分けるかを詳しく調べることにしたのです。

また次ページの最後には研究によって判明した最速学習の方法をまとめて紹介しています。

マインクラフト実験で「自分で極める」と「人を真似る」の最良バランスが判明

マインクラフト実験で「自分で極める」と「人を真似る」の最良バランスが判明
マインクラフト実験で「自分で極める」と「人を真似る」の最良バランスが判明 / 人気ゲーム『マインクラフト』の世界そのものを丸ごと「学習の実験室」に仕立てた場面を映しています。画面中央に広がるぎっしり詰まったブロック地帯が参加者の掘削ターゲットとなる資源フィールドで、プレイヤーは自分のアバターを操り、目に入る範囲だけを頼りにブロックを壊していきます。もし地下からスイカやカボチャなどの当たりブロックを引き当てると、その瞬間に地点がパッと光って青いスプラッシュが弾け、周囲のプレイヤーにも「ここが当たりだよ!」と知らせる社会的ヒントになります。ほかの参加者はこの合図を目印に近づくか、それとも未知の場所を探すかを即座に判断し、状況に応じて自力探索と他者模倣を行き来します。こうして「自力探索」と「他者模倣」がめまぐるしく切り替わる様子が一枚に収められ、研究者はこの仮想空間を通じて、人がいつどの瞬間に学習戦略をスイッチするのかを高解像度で計測できるようになったのです。研究チームは20分の1秒ごとに「何を見ているか」を自動抽出し、ブロック・イベント・他プレイヤーの座標データとひも付けて保存しています。プレイヤーの注意の向きがリアルタイムで記録されることで、「どの瞬間に社会的ヒントに気づき、どの瞬間に自力探索へ切り替えたか」という視線と行動のシンクロが高解像度で再現され、さらに蓄積ログからプレイヤーが次に掘るブロックを予測する計算モデルまで構築されています。つまりゲームプレイ中の生きた視点データがそのまま人工知能にも利用できる「学習アルゴリズムの燃料」に変わる瞬間を映し出し、実験が単なる観察ではなく人間の戦略を数式へ翻訳するプロセスまで踏み込んで調べています。/Credit:Charley M. Wu et al . Nature Communications (2025)