生命が急速に誕生した背景

 これまでの研究により、生命が急速に出現した背景には、地球が誕生してまもなく――わずか数千万年のうちに――海を張り、エネルギーと原料と“調理場”を同時にそろえてしまったからだと考えられています。岩石の結晶(ジルコン)の年代測定によれば、巨大衝突でドロドロに溶けた地表は意外に早く冷え、液体の海が安定しました。そこへ海底からは超高温の熱水が噴き出し、鉄硫化物などの鉱物が蜂の巣のような微細な空間をつくり、その壁で電子が自然に行き交う“天然の発電所”まで用意してくれたと考えられています。

 同じ頃、後期重爆撃と呼ばれる時代に隕石が雨のように降り注ぎ、アミノ酸の材料やリン酸塩、さらには水に溶けやすいリン化合物までも大量に運び込みました。リンは細胞膜やエネルギー通貨 ATP をつくる要となる元素です。つまり「材料もエネルギーもワークスペースも、一気に現場に届いた」わけです。

 さらに大気が薄く雲も少なかった原始地球では、いまより強い紫外線が海辺や浅瀬を照らし、シアン化物や硫黄化合物を材料にした“シアノスルフィジック化学”と呼ばれる反応を高速で進めました。空を裂く稲妻は高エネルギーのスパークを供給し、アミノ酸や脂肪酸の生成を短時間で後押ししたとみられます。

 こうして地球は「海+エネルギー+原料+反応容器」という生命の四点セットを、星としての幼年期に一気にそろえてしまいました。実際、37 億年前の微化石や 41 億年前の炭素同位体の手がかりに加え、最近ではすべての生物の共通祖先(LUCA)が 42 億年前にはすでに存在していたという解析結果も出ています。

生命が数億年というスピードで芽吹いたのは偶然の早打ちというより、条件がそろえばごく自然な成り行きなのかもしれません。

一方、この「生命の早期出現」が本当に地球型環境で広く起こりやすい現象なのか、それとも私たち自身がそこにいるからこそ当然そう見えているだけなのか――この点には大きな議論があります。