これは重力を使わずにブラックホールの物理を模倣できたということであり、重力場を持たない私たちの身近な環境でも類似の物理現象が起こり得ることを示唆します。

極論すれば、「ブラックホールがなくてもブラックホール的なエネルギー放出を起こせる」わけで、これはとても驚くべきことでしょう。

次に、この成果は将来のさらなる探究に向けた道を開きます。

今回の実験ではノイズがトリガーとなって波が成長しましたが、理論的には量子的なゆらぎ(真空揺らぎ)すら種になり得るとされています。

ゼルドビッチは当初、量子真空からエネルギーを引き出し回転体が減速する現象としてこの効果を語っており、それこそがホーキングによるブラックホール蒸発の着想源にもなりました。

研究チームは今回、現実的なレベルの熱ノイズなどから発振させましたが、将来的には温度を下げたり真空に近い条件を作ったりして「より微小な揺らぎ」から増幅を始めさせることを目指すでしょう。

もしそれが実現すれば、量子摩擦(量子真空による見えない摩擦抵抗)の直接検出といった、より深遠な物理の実験に繋がります。

実際、論文でも「ノイズからの指数増幅はブラックホールの不安定性の理論研究を後押しし、将来的には量子真空をシードとするゼルドビッチ効果(量子摩擦)の観測へ道を拓く」と述べられています。

さらに広い視点では、ブラックホール爆弾に関連する現象は宇宙の中にも潜んでいる可能性があります。

例えば近年の研究では、ブラックホールの周囲に存在し得る超軽量の粒子(例えばアクシオン)の場がブラックホールからエネルギーを引き出し「粒子の雲」を成長させる現象が提唱されています。

これはブラックホールに自然の鏡を与えるようなもので、結果的にブラックホールの回転が減速し、エネルギーが重力波などで放出されるかもしれないと予想されています(まさに宇宙版ブラックホール爆弾です)。

今回の実験は、そのような宇宙で起こり得るかもしれない超放射的インスタビリティ(不安定増幅)を地上で模擬したとも言えます。