いわばローターが増幅器に豹変するわけです。

この臨界条件こそゼルドビッチが示した増幅の条件で、実験では回転数で表すと毎分約7万回転前後(※仮の値)に相当しました。

クロムブさんは「円筒が電磁波を増幅に転じるには、円筒の回転速度が電磁波の回転(周波数)を上回る必要があります」と説明しています。

実際チームは、ローターの回転速度を変化させたとき電磁回路から取り出せるパワー(出力)がどう変わるか精密に測定しました。

その結果、ローターの回転が十分に速い条件では、回路の出力信号が明らかに強まる(増幅される)ことを確認しました。

「私たちは回転速度を変えつつ回路内のパワーを測定しましたが、円筒が十分速く回転したときに確かに出力が増幅されることを観測しました」とクロムブさんも述べています。

このように、まずゼルドビッチ効果によるエネルギー増幅の直接検証が成し遂げられたのです。

さらに注目すべきはここから先の現象です。

研究者たちは共振回路の損失を極力小さく抑える工夫をし、ローターから得たエネルギーが回路内にできるだけ蓄えられるよう調整しました。

ブラックホールを覆う鏡のような仕組みを回路で再現したわけです。

その状態でローターを臨界以上の速度で回転させると…起きました!

何も入力していないのに、回路内にわずかに存在する熱雑音や電気ノイズといった微小なゆらぎがタネとなり、回路の振動(電磁波)が自発的に成長を始めたのです。

増幅された電磁振動は共振ループ内をぐるぐる回り、ローターからさらにエネルギーを引き出してはますます振幅を大きくしていきました。

その増大ぶりはまさに指数関数的で、時間が経つにつれて信号強度が雪だるま式に急上昇していきます。

グラフ上では明確な指数関数カーブが描かれ、理論が予測していた「ランナウェイ(暴走)」増幅の特徴を示しました。

発振している振動の周波数もローターの減速に伴って少しずつ低下し、やがてあるところで増幅がピタリと止まりました。