言い換えれば、「ブラックホールをエネルギー源とした究極の爆弾装置」が理論的には可能かもしれない、というわけです。

もしSFなどの設定に利用するなら、銀河中央にあるブラックホールを巨大なブラックホール爆弾に変えて兵器とする……といった感じでしょう。

しかし実際の宇宙でブラックホール爆弾を起こすのは容易ではありません。

完璧な鏡でブラックホールを囲むなど現実にはあり得ませんし、たとえ似た状況(例えばブラックホール周囲に粒子や場が閉じ込められるような場合)があっても、観測が難しいからです。

それでも、この超放射の暴走メカニズムは宇宙物理や量子物理にとって非常に興味深い現象でした。

もし実験室でこの現象を再現できれば、ブラックホールを使わずにその物理の一端を直接検証できることになります。

そこで着目されたのが、1971年にソビエト連邦のヤコブ・ゼルドビッチが提唱したある理論です。

ゼルドビッチは「回転する金属円筒」を用いて、ブラックホールのエネルギー放出現象を地上で再現できるかもしれないと考えました。

彼の計算によれば、円筒のコマがある角速度で回転しているとき、特定の性質(角運動量)を持つ電磁波を当てると、コマから回転力を奪って反射波が強められるというのです。

条件はシンプルで、波の周波数が円筒の回転よりも十分低ければ増幅が起こると予言されました。

これはブラックホールにおける超放射のアナロジーであり、ゼルドビッチ効果または回転超放射と呼ばれます。

いわば回転する物体が自転エネルギーを削って波にエネルギーを与える現象です。

ゼルドビッチの予言は斬新でしたが、一つ大きな問題がありました。

当時の試算では、この効果が観測できるほど顕著になるためには円筒を光速に迫るような超高速で回転させる必要があると考えられたのです。

これは技術的にほぼ不可能です。

そのため長らく誰も実証できずにいました。