そのため、この時点で「四色定理」は証明されたとされています。

これはきちんと数学的推論に従ったアルゴリズムで解かれているので、数学の証明手続きとして問題はありません。

しかし、この「コンピュータプログラムですべてのケースを総当たりで確認する」というアプローチには、不満を抱く数学者たちも多かったのです。

なぜなら、数学者は「論理による一般化された単純明快な証明」を美徳とするからです。要は「数学はエレガントに解くべき」という信念が数学者にはあるのです。

コンピュータの総当たりチェックは、物理学者の実験的に確かめるスタイルに近く、数学的には「美しくない」というのです。

逆にもし仮にこの四色定理が物理学の問題だったとしたら、どんなにエレガントな証明があったとしても、物理学者たちは「それは本当に自然界で常に成り立つのか?」「シミュレーションや実測で再現されるのか?」ということを問題にして、総当りチェックがなされるまで認めない、という状況になったかもしれません。

数学は現実よりも論理を重んじ、物理は論理よりも現実を重んじる。

こうした数学者と物理学者の学問に対する価値観や、真理に対する考え方の違いは、科学の非常に面白い一面でしょう。

じゃあ一般相対性理論はどうだったの?

ここで読者の中には、次のような疑問を浮かべる人がいるかもしれません。

「でも、物理学にはアインシュタインの一般相対性理論みたいに、理論だけで成り立っていそうなものもあるじゃないか」

確かに、一般相対性理論は「重力とは、空間と時間そのものが歪むことだ」と言っています。

これは直感をはるかに超えた不思議な理論で、目で見たり触れたりできる種類の現象ではありません。

しかし、それでも物理学はこの理論についても現実に確認できなければ真理とは認めませんでした。

これこそ数学者の視点で言えば、アインシュタインの理論は非常にエレガントと言えるでしょうが、物理学ではそれだけでは認めてもらえない例だと言えます。