現在、アメリカのトランプ政権が、ロシアのクリミア併合を承認しようとしている。これは大きな判断になる。
だがクリミアはミュンヘンだ、つまり宥和政策だ、と単純に断定するのは、あまりに短絡的な歴史観だと言わざるを得ない。
そもそも、仮に、クリミア併合承認がズデーデン併合承認と同じであるとしたら、単にトランプ政権は、ロシアがポーランドに侵攻しても、手を出さないだけだろう。トランプ大統領は、「チェンバレンのように行動しない」だろう。
比較をするのであれば、「チェンバレンは腰抜けだ、トランプは間抜けだ」といったレベルではなく、もう少し真面目な国際情勢の分析をふまえた比較をするべきだろう。
ズデーデン地方の帰属問題は、第一次世界大戦の戦後処理としての1919年ヴェルサイユ条約の妥当性の問題であった。クリミア問題は、ソ連崩壊の事後処理としての1991年時の各共和国の国境線の問題だ。それぞれに独特の複雑な歴史がある。1919年までチェコスロバキアという主権国家は存在していなかった。1991年までウクライナという主権国家は存在していなかった。またズデーデン地方はドイツ人が多数住み、クリミアにはロシア人(話者)が多数住む複雑な民族構成を持つ。ズデーデン地方がドイツの手に移った際には、約22万人のチェコ人が難民としてチェコ側に流出したが、戦後にチェコスロバキア領に戻った際にはドイツ人の約250万人の難民と約25万人の不遇の死者が出た。