つまり、再生が可能かどうかは、「再生する能力そのもの」よりも、「再生によって何を再現するか」が問題なのです。
そのため、再生能力を維持するには、サンショウウオのように体の構造が単純であることが進化的に必要だった可能性があります。逆に、哺乳類のように高性能で複雑な身体構造を持つ動物では、むしろ不完全な再生がリスクになるため、その能力は進化の過程で徐々に抑制されていったのかもしれません。
【仮説2】免疫系の進化的衝突仮説
再生が成功するためには、組織内に炎症が少なく、細胞の変化に対して寛容な環境が必要です。
ところが哺乳類では、傷ができると即座に獲得免疫系が強力な炎症反応を起こし、損傷部位を繊維で閉じてしまう=瘢痕化(はんこんか)する方向に進みます。
瘢痕化というのは、組織が傷を修復する際に、本来の細胞構造や機能を再生せず、繊維質な“傷跡”として治る現象を指します。
これは感染症リスクの高い環境で有利だったと考えられます。炎症反応によって細菌やウイルスの侵入を素早く防ぎ、傷口を閉じてしまえば、短期的な生存率が上がるからです。
この戦略は「再生よりも応急処置を優先する」という方向への進化であり、免疫システムの進化が再生能力を犠牲にしてしまったという可能性を示しています。
【仮説3】恒常性・組織安定性の優先仮説
サンショウウオが脚を再生できるのは、その損傷部位の細胞が一度「未分化」の状態に戻るからです。
彼らは手足や尾を切断しても、「芽体(ブラステマ、英:blastema)」と呼ばれる未分化な細胞のかたまりを作り出し、そこから新しい組織を再構築します。
これは、いわば体の一部を「最初から作り直す」ようなプロセスです。
そして驚くべきことに、彼らはこの再生過程をがん化させずにコントロールする仕組みを持っています。たとえば細胞の分裂がきちんと途中で止まるようになっており、無限に増殖し続けるようなことがありません。