アルコール依存症から脱却するには意思の力だけでは困難です。

そこで今回、オレゴン健康科学大学の研究者たちは、アルコール依存症に陥った脳の遺伝子を改変することにしました。

脳細胞に問題があるなら、脳細胞の遺伝子を改組すればいいというわけです。

しかし実験を行うにはまず「脳の遺伝子を書き換えてもかまわない」アルコール依存症患者が必要でした。

アルコール依存症のサルを用意し脳の遺伝子を改変する

アルコール依存症のサルを用意し脳の遺伝子を改変する
アルコール依存症のサルを用意し脳の遺伝子を改変する / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

脳の遺伝子を書き換えても問題ないアルコール依存症患者はどこにいるのか?

この問題を解決するために研究者たちはまず、アカゲザルたちにアルコールを与え続け、アルコール依存症のサルを作りました。

サルにはもともとお酒を飲む習性はありませんが、大量のアルコールを飲む習慣をつけることで、人間とよく似たアルコール中毒状態にできるのです。

またアルコール依存症に陥ったサルの脳では人間と同じく、ドーパミンの分泌が少なくなります。

次に研究者たちはアル中サルたちを一時的に眠らせ、頭蓋骨にドリルで穴をあけました。

そして脳内でドーパミンを分泌する役割を持つ腹側被蓋野(VTA)と呼ばれる領域に、無害なウイルス(アデノ随伴ウイルス:AAV2)を注射しました。

このウイルスの中には人間由来の遺伝子である「GDNF」という遺伝子があらかじめ組み込まれています。

「GDNF」は成長因子の一種であり、ウイルスが感染して内部に入り込むと、ドーパミンを分泌する細胞数を急速に増加させるように作用します。

ドーパミンを分泌する細胞数が増えれば、アル中サルたちのドーパミン不足も解消されるはずです。

研究では4匹のアル中サルたちに対してこの処置が行われ、アルコール依存症の症状に変化が起きたかどうかが確かめられました。

結果、処置を受けたサルたちのアルコール摂取量が90%以上減少していることが判明。