しかし一部の違法薬物は、脳に対して特殊な作用を引き起こし、本来なら労力をかけなければ得られない「ごほうび」ドーパミンを、勝手に分泌させることが可能です。
お酒も違法薬物ほどではありませんが、脳にドーパミン分泌を促す作用があり、飲むとストレスが解消したり気分を良くさせる効果があります。
しかしこの「お酒によるドーパミン分泌」には、依存症を引き起こす罠が含まれています。
脳内の評価システムは厳格な存在です。
大量の飲酒を続け、ごほうびが勝手に分泌されて脳内にあふれるようになると「ごほうび」としての価値を維持するため、ドーパミンの分泌をどんどん減らしていきます。
日銀が市場で出回るお金の発行量を減らしてお金の価値を維持するように、脳の報酬システムもドーパミンの供給量を減らして、ごほうびの価値を維持しているのです。
そうなると困るのは、本人です。
何もしていない状態(デフォルトの状態)でのドーパミン量が減少したことで、渇望感が強くなり、ドーパミンを補充する行為、つまり飲酒を繰り返すようになり、アルコール依存症に陥ります。

この状態になるとお酒を飲むことは「普通の状態を取り戻す」に過ぎず、手軽に快楽を得る手段ではなくなってしまいます。
断酒によって依存症から回復することは可能ですが、快楽をチート的に手に入れるお酒は非常に魅力的であり、多くのアルコール依存症患者たちは断酒と飲酒再開を繰り返すことになります。
お酒を飲むと気持ち悪くなる効果がある「抗酒剤」やお酒に対する渇望感を減らす「抗渇望薬」も開発されていますが、残念なことに効果は限定的です。
アルコール依存症患者たちの多くは、酒を飲むために薬を飲むのをやめてしまうからです。