こうしたケースはこの試合以外でも度々起こっており、誤審防止のため、科学的判定の導入を求める声が高まると、2012年12月に日本で開催されたFIFAクラブワールドカップで、「ゴールレフ」という磁気誘導システムと「ホークアイ」という映像システムを併用したGLT判定が採用された。
これに続くように、主審が下した判定を補完する意味で導入されたのがVARである。複数回の試験導入を経て、2018年から公式ルールとなり、2018年のW杯ロシア大会で採用され一気に世界へ広がった。日本でも2019シーズンのルヴァン杯準々決勝と2020シーズンのJ1開幕戦で試験的に導入された上で、2021シーズンからはJ1リーグ、スーパー杯、ルヴァン杯プライムステージ、J1参入プレーオフを対象に導入された。
VARが発動されるのは「ゴールか否か」「オフサイドか否か」「PKか否か」「イエローカード、レッドカードの対象者の確認」に限られているのだが、まだルールの周知が行き届いていないせいか、得点とは関係ない場面でのファウルに対しても「VARだ!」と観客から叫ばれる場面も未だに聞かれる。また、判定の正確性が向上したが、試合の流れが中断され、微妙なオフサイド判定への不満も生じた。
かつては“誤審もサッカーの一部”とされる風潮もあったことは事実で、実際、1986年W杯メキシコ大会のアルゼンチン代表対イングランド代表戦でのMFディエゴ・マラドーナによる「神の手」ゴールといった誤審による伝説も生まれている。
また逆に、2022年のW杯カタール大会で日本代表がスペイン代表を相手に逆転ゴールを決めた際、MF三笘薫がゴールラインぎりぎりでボールを折り返し、MF田中碧の得点に繋げた「三笘の1ミリ」のような“VARによって生まれたドラマ”も存在する。
サッカーの“人間らしさ”を残しつつ、最先端技術とのバランスが、これからのサッカー界の課題となりそうだ。