しかし大きな問題は、こうした量子場(真空ゆらぎ)由来の相互作用は、同時に大きなノイズを生じやすいことでした。

特に複数の量子ビットを絡めて大規模なアルゴリズムを実行しようとすると、ノイズ管理が非常に難しく、なかなか実用性のある手法へとつながっていなかったのです。

そこで今回の研究チームは「変分量子回路(VQC)」というアプローチに着目しました。

これは、量子回路に含まれるゲート演算のパラメータを連続的に調整し、機械学習的な手法で最適化するというものです。

近年、量子機械学習(QML)の分野で急速に実用例が増えており、ハードウェア・ソフトウェア両面で実績が蓄積されています。

この変分量子回路の枠組みに、“高速で動く量子ビット”を組み込んだ新たな体系を作れないか――そこに研究者たちは可能性を見いだしたのです。

具体的には、量子回路を構成するパラメータを「量子ビットの運動パターン」(どのような軌道で、どのくらいの速度で動かすか)そのものに割り当てるという斬新なアイデアが採用されています。

こうして構築した相対論的量子コンピューターで、代表的なアルゴリズムである量子フーリエ変換(QFT)などを実装し、その可行性をシミュレーションと理論計算の両面から検証したのが今回の研究です。

研究チームは「相対論と量子情報を結ぶ入口として、この新しい計算手法が大きな一歩になる」と期待を込めています。

【SFではない】時間を歪ませて計算する量子回路

【SFではない】時間を歪ませて計算する量子回路
【SFではない】時間を歪ませて計算する量子回路 / Credit:Canva

今回の論文では、「相対論的量子回路モデル(VQC)」と呼ばれる新しい計算フレームワークが具体的に提案されています。

これは、“高速で動く量子ビット(UDW量子ビット)”が、ある種の量子場と相互作用することで計算を行うというユニークな仕組みです。

時空間を動き回る複数の量子ビットが、それぞれ異なる軌道をたどることで、単一ビットを回転させる操作と、量子場を介して複数ビット間にもつれ(エンタングルメント)を生成する操作を実行します。