まず、単一ビット回転については、量子ビットが経験する“固有時間”が鍵になります。

高速で移動するビットは、静止したビットよりも時間の進み方が遅れる(特殊相対性理論の「時間延伸」)ため、その差が量子ビットの内部状態の位相(回転角度)として現れるのです。

たとえば一定速度でビットをしばらく動かすと、相対論効果によってビットの状態が別の方向に回転している――つまり、新しい「単一ビットゲート」が実現されるわけです。

次に、もつれ生成操作については、直接ビット同士を物理的につないで相互作用させるのではなく、すべてのビットが共有する量子場を介して行われます。

量子場は「真空の揺らぎ」を内部に含んでおり、それが高速で動くビット同士の情報を“橋渡し”する形で、離れたビット間に量子的な関連(エンタングルメント)をもたらすのです。

これら「単一ビット回転+量子場を通じたもつれ生成」の2ステップを何度も繰り返すことで、複雑な量子回路を組み立てられるようになっています。

こうした仕組みにより、理論上は任意の量子アルゴリズムを実行可能な「ユニバーサル(普遍的)な量子計算プラットフォーム」を作り出せると著者らは主張しています。

では本当に計算ができるのか?

研究チームはその証明として、量子フーリエ変換(QFT)の実装を試みました。

QFTは整数の素因数分解で有名なShorのアルゴリズムをはじめ、多くの量子アルゴリズムで重要な基盤となる演算です。

今回、6量子ビット(2×3の格子状に配置)で動作する回路を設計し、50層からなる回路をコンピューター上でシミュレーションしたところ、約99.6%という高い忠実度(理想的な出力と一致する確率)を達成したと報告されています。

これはわずかな誤差しか含まれておらず、「相対論的に動く量子ビットでも、従来の量子コンピューターに匹敵する精度が得られる」ことを明確に示す結果となりました。