歴史的に見ても、1930年代のスムート・ホーリー関税法の際には対立に加わらなかったソ連が新たな貿易相手を獲得した例があります。
もっとも、そうしたケースを除けば高関税の応酬による世界全体の損失は大きく、結局は「全員が貧しくなるだけ」の結果にもなりかねません。
要するに、「高関税の世界」がニューノーマル化した場合、グローバル経済は協調路線から対立路線へと大きく舵を切り、新冷戦的なブロック化と低成長の時代が訪れるシナリオが考えられるのです。
企業も国家も効率より安全保障を優先せざるを得なくなり、私たち消費者の日常も製品価格の上昇などの形でその影響を受けるでしょう。
9:民主主義国家が持久戦に強い理由 — 「包括的制度」の視点から

長期にわたる経済競争(いわば持久戦)の局面では、実は民主主義国家が有利になる条件がいくつかあります。高関税を含む経済戦争が泥沼化した際、民主主義国はどのような強みを発揮できるのでしょうか。
第一に正確な情報と柔軟な意思決定です。
民主主義国家では自由な報道と多様な意見交換が保証されているため、政策の効果や副作用について正直なフィードバックが得られやすい傾向があります。
権威主義体制では都合の悪い情報が指導部に上がらず対応が後手に回ることがありますが、民主国家は問題が生じれば世論の圧力で軌道修正が利きます。
実際、「民主主義国家は意思決定者への情報伝達において権威主義国家をはるかに上回っており、環境変化に合わせて柔軟に政策転換できる」と指摘されています。
経済戦争のような長期戦では、この適応能力の高さが持久力につながります。
第二に強固な同盟ネットワークです。
民主主義国同士は価値観や制度が近いため深い信頼関係を築きやすく、軍事のみならず経済制裁や技術協定などでも緊密に連携できます。