ここまでの難関を突破しやっとこぎ着けた面接の基準が、面接官の個人的好みというのも生物学の厳しさの1つと言えるでしょう。

さらに、女性と男性の遺伝的な相性(免疫関連のHLA型)によって、女性の卵管内で精子の活発さが変わるという報告もあります。

言い換えれば、遺伝子的に相性の良い相手の精子ほど、ここで元気に泳げるようになるのかもしれません。

卵管で行われるこのプロセスは、まさに「最終面接」に例えられるでしょう。

卵子という採用担当者が“相性も含めてベストな候補”を見極めるシーンなのです。

最終試験:障壁の克服と内定

最終試験:障壁の克服と内定
最終試験:障壁の克服と内定 / Credit:Canva

こうして数百匹程度まで絞り込まれた精子の中から、最後に“内定”を勝ち取るのはたった1匹。

卵子の周囲には透明帯(ゼリー状の膜)や卵丘細胞の層といったバリアがあり、精子は尾を激しく振りながらそれを突破しようとします。

そして見事に膜を破り、卵子本体の細胞膜と融合できた瞬間、「一番乗り」の精子だけを受け入れるために卵子の膜が固くなる仕組みが発動。

他の精子が侵入できないようブロックするのです。

これは「多精受精」を防ぐための大切なプロセスで、受精卵(胚)が正常に発生するためには欠かせません。

こうして卵子と融合を果たした精子は、数億ものライバルをくぐり抜けた“エリート”ともいえる存在。

最終的には卵管内に200匹ほどが残り、そのうち1匹だけが「内定」を得る――文字にすると壮絶な競争ですよね。

これこそが、新たな生命が誕生するための厳粛かつ神秘的な選抜ドラマなのです。

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ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。