免疫というセキュリティチェックを潜り抜け、環境への適応力を示した精子だけが次のステージに進めます。

さらに、ここまでたどり着いた精子は生存力だけでなく質の面でも選び抜かれています。

例えば精子の持つ遺伝情報の損傷具合(DNA断片化の有無)は、その後の受精や胚発生に大きく影響しますが、女性の生殖器官内を生き残れる精子にはDNAが健全なものが多いと考えられます。

この段階までの過酷な選抜によって、体内にはより優れた性質を持つ精子集団が残るのです。

また、精子はこの旅の途中で受精能力を高める「受精能獲得(capacitation)」という成熟過程を完了します。

いわば本番の受精に向けた実地トレーニングを積んだわけです。

実際、性交後ごく早く卵管に到達した精子はまだ十分に成熟しておらず、受精には与れないことが多いとされています。

こうして適性検査を突破し受精準備も万端に整えた精鋭たちが、最後の舞台である卵管へと挑むのです。

四次試験:面接(卵子によるお眼鏡にかなうか)

四次試験:面接(卵子によるお眼鏡にかなうか)
四次試験:面接(卵子によるお眼鏡にかなうか) / Credit:Canva

受精の主舞台である卵管に入れる精子の数は、最初の数億匹からぐんと減ってわずか数百匹ほどになると推定されています。

就活でいえば「最終面接に呼ばれた候補者」といったところ。

そこへ、卵巣から放たれた卵子が卵管内へ到着すると、いよいよ両者の“直接対面”が始まります。

おもしろいのは、卵子の方から「化学物質」のシグナルを発して精子を呼び寄せているらしいという点です。

これは「化学走性」と呼ばれ、卵子が出す匂いのような物質を精子が感知し、誘導されるように卵子の周囲に集まってくる仕組みです。

しかも最近の研究では、卵子が発する化学信号に「好み」があって、ある精子には強く反応するのに、別の精子にはそうでもない……という現象が示唆されています。

まさに「面接官(卵子)のお眼鏡にかなった精子」だけが、最終候補として呼ばれている可能性があるのです。