中田自身が度々語っている「美しいものが好き」という言葉は、サッカーから日本文化へと移行した彼の関心の一貫性を示している。速さや力ではなくパスの美しさや全体の調和を重視した彼のプレースタイルが、引退後は日本酒や伝統工芸における美の探求へと自然に発展したのである。
結果よりも美意識、効率よりも本質を重んじる彼の姿勢は、現代のスポーツ界や社会全体に対する静かな異議申し立ての様にも思える。誰かの理解や称賛を求めるでもなく、ただ自分の内側の声に忠実に生きる。それが「中田英寿」という人物の核心であり、29歳での引退もその後の人生もすべては彼の美意識と情熱を追及した先の答えだといえるだろう。