そうした幅広い社会的つながりや主体的な活動は、認知症の発症を防ぐ保護因子になり得ます。

また、結婚生活が必ずしも全員にとって幸福とは限らず、ストレスの多い不幸な結婚は心身の健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。

実際、離婚後に幸福度が増したり、配偶者と死別した後に社会交流が活発化するといった報告もあります。

こうした点も踏まえると、独身者のライフスタイルは結果的に脳の健康を守る方向に働いている可能性があります。

今回の結果はまた、「結婚=健康に良い」という一般的なイメージに再考を促すものでもあります。

多くの先行研究が「結婚している方が認知症になりにくい」と報告してきた中、逆の傾向が示された背景にはいくつかの要因が考えられます。

著者らは、本研究に参加したNACCの対象者が平均年齢や学歴、主観的な物忘れの訴えなど一般の高齢者とは異なる特性を持つ点を指摘し、そうしたサンプルや統計上の調整要因の違いが結果の食い違いに影響し得ると説明しています。

いずれにせよ、結婚と認知症の関係は非常に複雑であり、今後さらなる研究が必要でしょう。

もちろん、この結果は「結婚すると必ず認知症になる」ことを証明したものではない点に注意が必要です。

(※今回の研究結果で得られたデータは相関関係であって、結婚そのものが認知症を“直接”引き起こすという因果関係を証明するわけではありません)

しかし少なくとも、従来の「結婚していれば認知症になりにくい」という通説に一石を投じる結果となりました。

今回の発見は、結婚や家族のあり方と高齢期の健康との関係について再評価を迫る興味深いものです。

配偶者がいる人もいない人も、それぞれの形で社会的に活発で健康的な生活を送ることが、認知症予防につながるのかもしれません。

今後の研究によって、この「結婚と認知症」にまつわる新たな知見がさらに明らかにされることが期待されます。