研究チームはまず、重力波を検出する仕組み全体をコンピュータ上で扱えるよう、「重力波検出器そのものを丸ごと数式モデルに落とし込む」という作業からスタートしました。
たとえば「鏡の反射率はどれくらいか」「ビームスプリッターをどの位置・角度で置くか」「アームは何メートル(あるいは何キロメートル)が最適か」「レーザーはどのくらいの強さで、位相はどれだけずらすべきか」など、考え得るすべての要素をパラメータとして設定できるようにしたのです。
このモデルを使って、開発したAIアルゴリズム「ユラニア(Urania)」に「ひたすら重力波をとらえる感度を高めるには?」というお題を与えました。
ユラニアは最初、パラメータの組み合わせを手当たり次第に試しては、結果(感度が上がったか、下がったか)を見て修正を繰り返します。
言わば、何十万通り・何百万通りもの配置や設定を片っ端から検証するイメージです。
この一連の探索は総計150万CPU時間にも相当する膨大な計算を要し、実際の期間にすると約2年かけてじっくり進められました。
まるで“忍耐強い研究者”が24時間ぶっ通しで実験しているようなものですが、人間とは違いAIは休まず一瞬たりとも手を止めないため、想像を絶する規模で検討を重ねられたわけです。
こうして弛まぬ探索の末に見つかったのが、50種類以上に及ぶ新しい検出器デザインでした。
しかも、そのうち多数の案が次世代のLIGO(Voyager)設計よりも高感度を示したのです。
具体的には「どれだけ遠くの重力波をキャッチできるか」という目安が10倍以上も拡張され、宇宙の体積に換算すれば約50倍もの広い範囲で重力波イベントを観測できる可能性がある、という衝撃的な結果となりました。
もし実用化できれば、「観測できる宇宙」を一気に広げる夢のようなブレイクスルーになると期待されています。
さらに興味深い点は、AIが導き出した解の中に、すでに人間が長年かけて開発してきた手法を“偶然にも再発見”したものが含まれていたことです。