火星の二つの衛星のうち、内側を回る「フォボス」。この小さな天体は、太陽系の中でも特に謎めいた存在として、長年にわたり科学者や研究者たちの想像力を掻き立ててきた。その起源は未だ解明されておらず、「自然にできた衛星ではないのではないか?」という大胆な説まで飛び交っているのだ。

 フォボスを巡る数々の謎の中でも、特に注目を集めているのが、その内部構造と表面に存在する奇妙な物体だ。果たして、この小さな衛星は太古の火星文明が遺した人工物なのだろうか? それとも異星人の前哨基地だったりするのだろうか?

「フォボスは人工物」著名な科学者たちの主張

 フォボスが自然の天体ではない可能性を最初に強く主張したのは、旧ソ連の著名な天体物理学者イオシフ・サムイロヴィチ・シュクロフスキーだ。彼はフォボスの特異な軌道(火星に徐々に近づいている)を長年研究し、その動きは通常の衛星ではありえないと結論付けた。そして、「フォボスは内部が空洞の人工天体である」という仮説を提唱したのだ。

 この説は、当時のアメリカ大統領アイゼンハワーの特別顧問を務めたフレッド・シンガー博士も支持した。シンガー博士は1960年の学術誌への寄稿で、「もし天文学的観測から推測されるように、この衛星が実際に(火星に向かって)らせん状に降下しているならば、それが空洞であり、したがって火星製であるという仮説以外にほとんど選択肢はない」と述べている。ただし、彼は観測誤差の可能性も指摘し、「大きな『もし』は天文学的観測にある」とも付け加えた。

 さらに1963年には、NASAの応用数学部長だったレイモンド・H・ウィルソンJr.もこの説に加わり、「フォボスは火星を周回する巨大な基地かもしれない」と結論付けた。