特に男女間の性差の影響については、これまでの多くの医学研究で、男性は女性に比べて高血圧のリスクが高く、また塩分摂取による血圧上昇にも敏感であることが知られているため重要なポイントでした。

実際、周囲を見回しても男性のほうが血圧の問題を抱えているケースが多いと感じる人は多いかもしれません。

このように昔からよく聞く説や問題であっても、中身には謎が多いというケースは多々あります。

そのため、この課題に対してカナダのウォータールー大学(University of Waterloo)の研究チームは、より踏み込んだ科学的検証を試みました。

彼らは、腎臓、心臓、血管、自律神経、ホルモン系(RAAS)といった血圧調整に関わる主要な生体システムを網羅した数理モデルを構築し、さらに男性と女性それぞれの生理的特性を反映させた個別モデルを作成して、カリウム摂取が血圧に与える影響を高精度にシミュレーションしたのです。

特に注目したのは、男女間でカリウムの効果に違いが生じるかどうか、またその違いがどの生理機構によって説明できるか、という点でした。

今回の研究では、既存の生理学研究から示唆されていた、閉経前の女性は男性に比べて、腎臓におけるナトリウム再吸収の抑制、血管拡張作用を持つ一酸化窒素(NO)の豊富さ、さらにレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の働き方の違いによって、塩分負荷や血圧変動に対して耐性が高い可能性がある、という仮説を取り入れ、このモデルに組み込んで検証を行いました。

シミュレーションの結果は、興味深いものでした。

カリウム摂取を増やすと、男女ともに血圧は低下しましたが、男性の方がその効果は大きく、女性ではもともと血圧変動に耐性があるため、低下幅はやや小さいことが示されましたのです。

この成果の意義は、単なる経験則や観察に基づく推測を超えて、血圧調整に関わる生理メカニズムを数理的に再現し、科学的な裏付けを持って「なぜカリウムが血圧に良いのか」を初めて体系的に示した点にあります。