一部の研究では、無性愛者のホルモンレベル(テストステロンやエストロゲンなど)を測定して、異性愛者・同性愛者と比べて統計的に明確な差があるかどうかを調べようと試みています。しかし、現在までのところ「ホルモン値が常に一般的な基準と異なる」といった決定的な結果は報告されていません。むしろ、無性愛者でもホルモン値は一般的な範囲に収まるというケースがほとんどで、「脳が性的刺激をどのように処理するか」や「性欲を生じさせる神経経路の感受性」といった、より微細なレベルでの違いが関与している可能性が考えられています。たとえば、性的刺激に対する脳活動を計測する研究などでは、無性愛者の脳が性刺激に対して他の人よりも低い反応を示すケースが見られる一方、まったく変わらない人もいて、まだまだ研究者を悩ませている状況です。

もちろん、ホルモンや遺伝といった生物学的な要因も無視できず、今後は多角的な視点で研究を進める必要があるでしょう。

研究者たちは、こうしたパターンがどのような仕組みで生まれるのかを解き明かすには、まだまだ多くのデータが必要だと考えています。

たとえば「なぜ姉や兄が増えると、ある性的指向が生まれやすくなるのか」という疑問に対しては、胎児期のホルモンや母体免疫だけでは説明できないかもしれません。

家族の中での役割分担や、兄弟姉妹間の力関係、コミュニケーションの取り方など、社会的な影響も大きい可能性があります。

今回の研究に参加したのは主にシスジェンダー男女であり、ノンバイナリーやトランスジェンダーなど、多様なジェンダーの人々は分析対象外になっている点も今後の課題でしょう。

さらに、人種的に白人が中心のサンプルであるという点も含め、文化的背景の違いによる影響を検証する必要があります。

研究者たちが今後さらに多様なサンプルを集め、文化的背景やジェンダーの違いも含めた検証を進めていけば、無性愛やその他のセクシュアル・マイノリティが生まれるプロセスがより鮮明になっていくはずです。