また、今回取り上げられたのは主に視覚野における例ですが、人間の脳を含め、他の脳領域や多彩な感覚・行動領域にまで広げるには、まだ多くの技術的・倫理的課題も残されています。

たとえば、もし仮にAIの力によって人間の脳の完全な神経ネットワークが生成された場合、それは人間と言えるのかという複雑な問題にも発展しかねません。

現状はマウス脳の視覚機能という局所的な成功に留まっていますが、計算速度の加速度的な進歩を考えれば、人間の全脳の神経回路をAIが簡単に作成できる紐来るかもしれません。

それでも、複数のマウスから集めたビッグデータを活用し、高精度な“基盤モデル”を構築しておけば、実際の実験を最小限に抑えつつ脳研究を大きく前進させられるという発想は、神経科学のあり方を大きく変える可能性があります。

いわば「動物実験もクラウド化される」ような感覚で、研究者同士が共通のモデルやデータベースを活用しながら、より壮大で複雑な仮説にも対応していく未来が見え隠れしているのです。

脳という“究極の謎”に迫るうえで、コンピュータの中にもうひとつの脳を作り上げる手法は、今後さらに大きな飛躍をもたらしてくれるかもしれません。

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元論文

Foundation model of neural activity predicts response to new stimulus types
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08829-y

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部