ポイントは、従来の「ワクチン接種群と非接種群を比べる」観察研究では拭いきれなかった「本当は、健康意識が高い人が接種するから違いが出ているのでは?」という疑問を、“生まれつきの誕生日”という偶然を利用することでほぼ解消していることにあります。

つまり、同じような条件下にある人たちの間で、誕生日の境界によって偶然に接種可否が変わるからこそ、「帯状疱疹ワクチンが認知症リスクを下げるかもしれない」という因果関係がより説得力をもって浮かび上がってきたのです。

結果として得られた「認知症リスク20%低減」という数字は、まさにこの画期的な自然実験の手法によって支えられていると言えるでしょう。

鍵はウイルス再活性化&オフターゲット効果?

ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】
ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】 / Credit:Canva

今回の研究では、帯状疱疹ワクチンを接種することで認知症リスクが下がるかもしれない、という一見意外な結果が示されました。

ただし、このワクチンは当時主に使われていた弱毒化ワクチン(Zostavax)であり、現在広まりつつある組み換え型ワクチン(Shingrix)でも同様の効果が得られるかどうかは、今後の研究課題になります。

では、なぜ帯状疱疹ワクチンが脳の健康を守る可能性があるのでしょうか。

考えられる要因は大きく分けて二つあります。

まず一つ目は、ヘルペスウイルスの再活性化を抑える働きです。

帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が原因ですが、このウイルスは子どもの頃に水ぼうそうとして感染した後もずっと神経節に潜んでおり、大人になって免疫が低下したタイミングで再び活動を始めることがあります。

もしワクチンによってウイルスが再活性化する頻度や勢いを抑えられれば、慢性的な炎症が脳に波及するリスクが減るかもしれない、というわけです。

過去の研究でも、帯状疱疹を繰り返している人ほど認知機能に影響が出やすい傾向があると示唆されており、今回の結果はそうした“ウイルス再活性化が脳に及ぼす悪影響”を防ぐ可能性を裏付ける形になっています。