だからこそ研究者たちは、「本当にワクチン接種そのものが認知症のリスクを下げているのか」を突き止めるため、よりダイナミックな手法が求められていたのです。

そこで今回研究者たちは、“自然実験”と呼ばれるアプローチを使うことにしました。

ちょうどウェールズでは、ある日付より前に生まれた人は帯状疱疹ワクチンの公的接種の対象外、ある日付以降に生まれた人は対象内という、かなりキッパリした制度が運用されていたのです。

生年月日がたった数日違うだけでワクチンを無料で受けられるかどうかが大きく変わる状況を利用し、両グループの認知症発症率を比較すれば、従来の交絡要因が最小化できる──そう考えたわけです。

こうして、大規模な電子カルテデータと公的接種制度の“生年月日による線引き”を組み合わせることで、帯状疱疹ワクチンと認知症リスクの関係を、より厳密に検証することに挑んだのです。

まさかの関係:帯状疱疹ワクチンが認知症予防に

ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】
ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】 / Credit:Canva

この研究でいちばんユニークなのは、「人によってワクチンを打つ・打たないの差が、ほとんど偶然で生まれている」という点を巧みに利用していることです。

たとえば、ウェールズでは1933年9月2日を境に、公費で帯状疱疹ワクチンを受けられる人と受けられない人がはっきりと分かれてしまう制度が存在します。

少し不思議に感じるかもしれませんが、これは同国の公的医療サービスが「今年◯歳になった人は○○ワクチンの対象」「来年からはさらに若い年齢の人が対象」といった段階的な接種プログラムを運用した結果、ちょうど1933年9月2日という日付で線引きをするかたちになったのです。

具体的には、2013年9月1日に始まった帯状疱疹ワクチンのプログラムが「80歳になったばかりの人は一定期間、公費で接種できるようにする。