そしてこの再活性化が、神経系に悪影響を与える可能性がある──そんな説は以前から指摘されており、実際に複数の観察研究では帯状疱疹を経験した人ほど認知機能低下のリスクが高まるかもしれないというデータが示されています。
さらに、マウスを用いた実験的なモデルでも、ヘルペスウイルスの再活性化が神経細胞に慢性的な炎症やダメージをもたらし、脳の老化や認知症の進行を後押しする可能性があると報告されています。
また、近年は「ワクチンのオフターゲット効果」という新しい視点がクローズアップされています。
これは、特定の病気を予防するはずのワクチンが、免疫システム全体にプラスの変化をもたらすことで、結果的に別の疾患リスクまで下げるかもしれないという考え方です。
たとえば、インフルエンザワクチンを打つ習慣がある人は総じて健康リテラシーが高くだけでは説明できないメリットが存在するのではないか、と考えられています。
帯状疱疹ワクチンと認知症の関係は、まさにこの二つの見方──「ヘルペスウイルスによる神経への影響」と「ワクチンが免疫を幅広く強化するかもしれない効果」──が交わる論点として浮上してきました。
ところが、こうした研究を進めるうえで大きな障壁だったのが、“ワクチンを打つ人”と“打たない人”との生活習慣や健康意識の違いをどのように排除するか、という問題です。
単純に「接種群 vs. 非接種群」で比較してしまうと、ワクチン接種率の高い人ほどもともと健康管理に熱心だったり、医療機関をこまめに受診していたりして、結果が歪められる可能性があるわけです。
歴史的にも、ヘルペスウイルスと脳機能についてはさまざまな仮説と検証が繰り返されてきました。
ただ、実際に「帯状疱疹ワクチンが認知症発症を予防する」とまで踏み込んだ研究は多くありませんでした。
その理由のひとつが、先ほどの“交絡因子”をうまく制御できないという難しさです。