しかも、捜査や逮捕の実績が多い地域ほどデータ量が多いため、結果的に特定の人種や社会的弱者が高リスクと判断されやすくなるのではないかという懸念も拭いきれません。
ステートウォッチは、英国の警察が「制度的な人種差別を内包している」という指摘を踏まえれば、そもそも差別の温床となっている既存データを材料に未来を予測する行為自体が危険だ、と強く批判しています。
とはいえ、当局は「まだ研究段階であり、実運用は考えていない」と説明しています。
しかし、研究と実用との境目は曖昧です。
過去にもイギリス政府が開発した「再犯予測ツール(OASys)」が、裁判の量刑や保釈判断に使われることで、データの偏りがそのまま差別を強化する結果を招いたという研究報告もあります。
殺人予測プロジェクトが同じ道をたどる可能性は否定できないでしょう。
このように、プロジェクトが生まれた背景には「殺人を減らしたい」「重大犯罪を未然に防ぎたい」という切実な思いがあります。
一方で、守られるべき人権やプライバシー、そして社会的バイアスの増幅をどう防ぐかという根本的な問いも突き付けられています。
結局のところ、膨大な個人データを巧みに扱う技術そのものは画期的であっても、誰が、どのように、どこまで使ってよいのか、その線引きはとても難しい問題だからです。
こうした経緯を踏まえると、社会全体で議論を深める必要があるのは明らかです。
なぜなら、このプロジェクトが本当に進められていくなら、私たち全員が「潜在的な予測対象」となる可能性を孕んでいるからです。
すでに公表されている資料を読むだけでも、そのスケールと影響力の大きさは一目瞭然。
プロジェクトの背景を知ったうえで、私たちはこの“殺人予測”という新しい試みにどう向き合っていくべきなのか――大いに考えさせられるところではないでしょうか。
膨大な個人データで“犯行予兆”を割り出す仕組み
