この本のポイントは、「立場を見るな、利益を見ろ」ということである。「立場」とは相手が公式に表現している主張のことである。「利益」は、立場を支えている現実の関心対象だ。
交渉の基本は、「立場」の違いにとらわれず、「利益」の共通項を見出し、確認し、発展させることだ。トランプ大統領の粗い言葉や意表を突いた態度に惑わされず、アメリカの核心的利益を見出したうえで、日本の利益との共通領域を見出す、ということだ。
関税率を24%云々といった言葉尻にとらわれると、「それは不当だ」「計算方法が杜撰だ」「自由貿易の原則に反する」「日本だって色々と努力している」といった水掛け論的な反応だけをしてしまう。
トランプ大統領が「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠にして高率関税を導入することを宣言した背景には、現実の過去最大の貿易赤字(2024年度に1兆2117億ドル)がある。そして貿易赤字と連動したやはり史上最高規模で膨れ上がっている財政赤字がある。累積で2024年度に35兆ドルで、対GDP比で124%の水準に達している。
この巨額の財政赤字にもかかわらず、トランプ大統領は、空前の規模の減税を導入しようとしている。これも選挙の公約である。となれば、迅速な財政赤字の改善の提示は急務であり、イーロン・マスク氏のDOGEによる急進的な政府機構の縮減策なども、その文脈で行われているわけである。
これが現在のトランプ政権の核心的利益だ。自由貿易体制の維持とか、日本の対米投資額はいくらか、といった話は、仮に無関係ではないとしても核心的ではない。
日本はアメリカの貿易赤字/財政赤字を減らす方策をとるのかどうかが核心的利益である。そこに焦点を合わせなければ、何を言っても、迂回路である。
もちろん「MAGA(アメリカを再び偉大に)」の観点から言えば、財政赤字の削減は、選挙民であり納税者であるアメリカ国民の生活の改善につながるものでなければならない。ただそれは当面は、減税の断行、という具体的政策に還元させることができる。そこで減税を進めるための財政赤字の改善こそが核心的利益だ、と考えて間違いないだろう。