だからアベノミクスもすべてが大失敗だったわけではありません。問題だったのは、「お金の行き先が偏っていた」という点です。

ここがMMTに似ていると言われながらも、日本の政策は似ているだけで全然違うと言われる理由でもあります。

MMTは政府がお金を出してインフレに誘導する場合、そのお金の行き先が重要だとしていました。しかしアベノミクスはあまりそこに注意を払っていませんでした。

日本は構造改革によって、一般の労働者に利益が分配されにくい構造を作り上げていました。そのため、国が公的資金を注入しても結果的にそれは一部の人を潤すだけになってしまったのです。

多くの人は「インフレを起こせば自然に賃金が上がる」と期待していたかもしれません。しかしその期待は“分配の仕組み”が壊れていたために裏切られたのです。

結局、株や不動産などの資産価格は上昇し、資産を持つ人はますます豊かになりましたが、賃金の上昇は起こらず格差を拡大するだけになってしまいました。

これが安倍政権の誤算だったのか、意図的に構造改革の影響を過小評価していたのかわかりませんが、結果として日本政府は格差が拡大する仕組みを残したままインフレに誘導してしまいました。

そのため、今の日本は企業だけ理想的なインフレで、庶民にとっては「景気が回復しないのに物価だけが上がる」スタグフレーション的状況に陥ってしまったのです。

なぜ物価高なのに消費税を上げるのか?

いろいろ複雑にねじれているとは言え、現在の日本はインフレ率が上がり、通貨安となっています。

結論から言うと、現在のような「インフレ+通貨安」の状況に対して、増税で対処しようとすること自体は“理論的には妥当”と言えます。

経済理論では、物価が上がりすぎている(インフレ)ときは、市場に出回っているお金を減らす必要があるとされています。そしてMMTではその手段の一つが、「増税」によってお金を回収することだとしています。