これにより、関税交渉を前に、トランプ支持層であるアメリカ農家に確実な売上を約束できるのだ。

さらに、一定量を長期的に購入する契約を結び、アメリカ国内で備蓄する。大豆や飼料用トウモロコシもこの仕組みに組み込めば、日本の食料安全保障とアメリカの政権・農業州の利害が一致し、日米の同盟関係がさらに強固になる。

これは空想ではない。2019年、安倍首相はトウモロコシの先行購入を即決し、トランプ氏の対日圧力を巧みに回避した実績がある。

この提案もまた、単なる食料備蓄に留まるものではない。

日本がアメリカ国内に設ける「穀物備蓄」を、米軍や同盟国と連携して「戦略物資」として位置づければ、台湾有事やシーレーン封鎖への現実的な備えとなり、抑止力にもなる。

中国にとっても、アメリカの食料と日米の安全保障が結びついた構造は、軍事的冒険を抑える重石となり得る。

わかりやすく言えば、日米安全保障条約に「食料条項」を加えるようなものだ。

さらに、中国の食料戦略に対抗する「インド太平洋・食料安保構想」へと発展させることも視野に入れられる。

農業・通商・外交をつなぐ現実的構想

食料安全保障のリスク管理が飛躍的に向上し、米軍の後ろ盾を得ることで、日本国民が有事の際、「飢えない」という安心感も高まる。こうした発想は、決して荒唐無稽なものではない。

TPP交渉時、豪州政府は「日本の食料安全保障のためなら、豪州国内に日本の食料備蓄制度を導入する用意がある」とオファーしたことがある(ただし、農水族が食料自給率や農業保護政策の名分、利権を失うことを恐れ、政府はこれを拒否した)。

また、イスラエルは実際、有事を前提に国内外に分散した備蓄体制を構築し、東欧諸国などと小麦確保の覚書を結んでいる。

購入した穀物は平時には日本国内で流通させず、国内のコメ市場やコメ農家への影響を抑える。

一方、アメリカ産を国内外に分散備蓄することで、国産新米の備蓄負担をなくし、すべてを市場に供給できる。これにより、価格高騰や供給不安の緩和にもつながる。