もちろん、コミュニケーション能力など個人の資質も重要ですが、それは優先順位でいうと3番目くらいの要素にすぎません。
尾藤:では、マネジメントにおいて何を最優先に考えるべきなのでしょうか?
安藤:まず戦略とミッションです。次に、それを実現するためのロール(役割)設計です。結局は経営の本質に立ち返る必要があるということですね。この考え方を広めるために書いた「リーダーの仮面」がダイヤモンド社から出版され、爆発的に売れました。
尾藤:ダイヤモンド社の出版は影響力がありますね。
安藤:1冊書くのに3〜4ヶ月はかかりますね。やはり商業出版には影響力があるのでこだわりました。自費出版では流通網に乗せにくいですから。
尾藤:確かに、商業出版は営業面での強みがあります。
安藤:私の著書でも一貫しているのは、「個人」ではなく「仕組み」「構造」に着目する点です。ここが一番伝えたいメッセージです。
自己啓発セミナーが流行ったのは、「個人のやる気」に依存する組織運営が一時的に成果を出したからでしょう。しかし私たちのアプローチは逆で、「一人一人がやらざるを得ない環境をいかに作るか」に注力しています。
会社のルールを明確にし、各人の責任範囲を明確にした上で、その責任に見合った権限を与える。そうすることで「できない理由」を言わせない環境を作ります。
また、一人では「できなくてもしょうがない」と思われがちな仕事でも、競争環境を整えることで、「誰かはできているのに自分ができていない」という状況を作り出し、自己責任の認識を強めます。こうして一人一人が「仕組み」の中で動かざるを得ない環境を作ること、それが「枠組みで動かす」ということなのです。
そういう環境に置かれた人は、「やらざるを得ない」状況から頑張り始めます。そして頑張った結果、成長できると、その成長の実感から「仕事の喜び」を感じ、さらに頑張るようになる。
これが私たちの考える理想的なステップです。つまり、やる気は成長の結果として生まれるものであり、従来の日本的アプローチのように「やる気を先に与える」という発想とは逆なのです。これも時間軸の考え方の違いです。この違いが広く認識されれば、日本のマネジメントも変わるのではないかと思います。