尾藤:興味深い視点ですね。話はかわります。上司の褒める行為についてはどのようにお考えですか?

安藤:褒めるという行為には注意が必要です。褒めると、その基準が「求められるレベル」として定着してしまう傾向があります。例えば100点の成果を褒めると、「自分に求められているのは90点レベルなんだ」と認識されてしまう。

さらに、褒めるとインフレーションを起こします。一度褒めたら、次はもっと褒めなければならなくなる。そのため、よほどのことがない限り褒めない方が良いと考えています。

何より重要なのは、「成長」の定義です。成長とは「できないことができるようになること」です。できないことを指摘しなければ人は成長しません。褒めるだけでは真の成長は見込めないのです。

尾藤:その考え方、もう少し詳しく教えていただけますか?

安藤:上司の重要な仕事は、部下が現在の経験や知識では理解できないことにチャレンジさせることです。部下は最初は腹落ちしなくても、「上司に言われたからやらざるを得ない」と取り組み、実際にやってみて初めて「こういうことだったのか」と理解できるようになる。

問題は、現代のマネジメントには「時間軸」の概念が欠けていることです。

尾藤:なるほど。それはあらゆる場面に当てはまるということですか?

安藤:そうです。褒める行為も同じです。その場の瞬間だけを考えれば、褒め合うのは気持ちいいことです。しかし、時間軸で考えると、褒められたレベルが基準となり、期待値が下がってしまう。そして、一度褒めたら次も褒め続けなければならなくなり、結果的に褒めること自体がマイナスに作用します。

コミュニケーションも同様です。その場で納得できなくても、時間の経過とともに理解できればいいのです。モチベーションについても「モチベーションを高めなければ頑張れない」「社員のためにモチベーションを上げよう」という発想は、「他者にモチベーションを上げてもらわないと頑張れない」という依存的な思考を生み出します。