しかし冷戦が終わって、しばらくして、いつのまにか共産党がまだ政権を維持している中国が、自由貿易体制を逆手にとってアメリカを上回るGDP(PPP)を持つようになり、巨額の貿易赤字をアメリカに与えるようになった。
何かおかしいのではないか?とそろそろアメリカ人が疑問を感じるようになったとしても、それは著しくは不思議なことではないかもしれない。疑問を感じた「保守主義」のアメリカ人が、「モンロー・ドクトリン」あるいは「アメリカン・システム」の政治・経済政策への回帰を考えるようになったとしても、それも必ずしも驚くべき程には不思議なことではないかもしれない。
もっともそれは18世紀末のハミルトンへの回帰というよりは、19世紀末のマッキンレーへの回帰を目指すものであるかもしれない。前者は、製造業復活のアジェンダである。後者は帝国主義のアジェンダである。
日本でも、マルクス主義経済学が隆盛だった時代には、アメリカの関税政策を、現在とは異なる視点で捉える者もいた。すでに欧州諸国に匹敵凌駕する経済力を持つに至った19世紀末以降もなおも高率関税をとりながら、しかし同時に互恵主義政策も取ろうとしたアメリカの姿勢を、帝国主義的政策の特徴だと考える経済学者もいた。
「アメリカ合衆国にとってはもはや経済的意義を直接にはもたなくなった関税を武器として相手国に関税軽減を要求し、アメリカ合衆国の輸出を伸ばす。ここでは、関税はかつての育成関税ではなく、またたんなるカルテル形成促進関税でもなく、まさに独占組織体としての独占関税の役割をはたすものであったといってよかろう。」(中西直行「アメリカの保護関税」武田・遠藤・大内[編]『資本論と帝国主義論:鈴木鴻一郎教授還暦記念』[下][東京大学出版会、1971年]、262頁。)
トランプ関税の導入に対して、欧州・カナダと、ライバル中国は、報復関税の導入で対応しようとしている。新古典派の経済学の教科書通りの対応である。